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2026-09
微生物ごとに得意な発酵の違い⑤
納豆菌 ― 力強くタンパク質を分解する発酵の職人
ここ最近は気候が落ち着かず、不安定な日が続いています。
なかなか食事のメニューも温冷と悩むことが多いですが、そんな時でも比較的食べやすいのが納豆です。
私自身、外食ではない日は1日1~2パック食べています(酒蔵に行く日以外...理由は後述(笑))
そんな身近な納豆ですが、その美味しさや独特の粘りを生み出しているのが、今回ご紹介する
「納豆菌」
です。
前回ご紹介した酢酸菌が発酵の仕上げ役だとすれば、納豆菌は力強く食品を変化させる職人のような存在です。
納豆菌とはどんな微生物か
納豆菌は、
Bacillus subtilis var. natto
という細菌の一種です。
名前の通り、納豆づくりに欠かせない微生物であり、高温でも生き残る非常にたくましい性質を持っています。
乳酸菌や酵母と比べても生命力が強く、増殖速度も速いことが特徴です。
そのため、発酵食品の世界では少し特殊な存在として知られています。
納豆菌の得意技はタンパク質の分解
納豆菌が最も得意としているのは、
タンパク質を分解すること
です。
大豆に含まれるタンパク質を分解し、
- アミノ酸
- ペプチド
- 旨味成分
へと変化させます。
これによって、大豆そのものとは異なる、納豆ならではの旨味が生まれます。
前回までにご紹介した麹菌もタンパク質を分解しますが、納豆菌はさらに力強く働き、短期間で大豆を大きく変化させることができます。
あの「ネバネバ」の正体
納豆と言えば、やはり独特の粘りを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
この粘りの主成分は、
ポリグルタミン酸
と呼ばれる物質です。
納豆菌が発酵の過程で作り出しており、水分を保持する能力が高く、納豆特有の糸引きの原因となっています。
納豆好きの方にとっては魅力ですが、苦手な方にとっては最大の特徴でもありますね。
納豆菌は健康面でも注目されている
納豆菌は発酵食品としてのおいしさだけでなく、健康との関わりでも注目されています。
納豆には、
- ビタミンK₂
- 各種アミノ酸
- 食物繊維
などが含まれています。
また、納豆菌の働きによって作られる成分についても、さまざまな研究が進められています。
昔から「納豆は体によい」と言われてきましたが、その背景には納豆菌による発酵の力があると言えるでしょう。
実は共存が苦手な微生物
納豆菌の面白いところは、その生命力の強さゆえに、他の発酵で使われる微生物と共存しにくい点です。
例えば日本酒や味噌の製造現場では、納豆を工場内へ持ち込まないケースもあると言われています。
それほどまでに納豆菌は強く、環境中でも生き残る能力に優れています。
そのため、私も酒蔵に行く日は食べることを控えるようにしています。
ここまでの微生物を振り返ると
今回までにご紹介した微生物を整理すると、
乳酸菌
- 乳酸を作る
- 発酵環境を整える
酵母
- アルコールを作る
- 香りを作る
麹菌
- 酵素を作る
- 原料を分解する
酢酸菌
- アルコールを酢酸へ変える
- 酸味と保存性を与える
納豆菌
- タンパク質を分解する
- 独特の旨味と粘りを生み出す
このように、同じ「発酵」に関わる微生物でも、それぞれ得意分野が大きく異なります。
まとめ
納豆菌は、
「タンパク質を分解し、独自の旨味と粘りを生み出す発酵の職人」
とも言える微生物です。
その力強い働きによって、私たちは納豆という世界でも珍しい発酵食品を楽しむことができます。
今回で「微生物ごとに得意な発酵の違い」シリーズは一区切りとなります。
乳酸菌、酵母、麹菌、酢酸菌、納豆菌と見てきましたが、改めて感じるのは発酵が一種類の微生物だけで成り立っているわけではなく、それぞれの微生物が得意分野を活かしながら支え合っているということです。
次回は、これらの微生物が連携して生み出す「複合発酵」の面白さについてご紹介できればと思います。
どうぞお楽しみに。
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2026-07
微生物ごとに得意な発酵の違い②
酵母 ― 香りとアルコールを生み出す発酵
いつもキティーブログをご覧いただきありがとうございます。
暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
少し前、神奈川県内に13蔵あると言われている酒蔵の一つ、中沢酒造様の「酒蔵まつり2026」に参加してきました。
チケット制でさまざまな味わいや香りのお酒を試飲できる、酒好きにはたまらないイベントです。
普段何気なく楽しんでいる日本酒ですが、そのおいしさや香りの裏側では、実は微生物たちが大活躍しています。
前回ご紹介した乳酸菌は、乳酸を作り出して発酵環境を整え、腐敗菌の増殖を抑える役割を担っていました。
今回は、その環境の中で活躍するもう一人の主役、
「酵母」
についてご紹介したいと思います。
酵母とはどんな微生物か
酵母は、糖を分解して
- アルコール
- 二酸化炭素
- 香り成分
を作り出す微生物です。
代表的な酵母として「サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)」が知られていて、日本酒、ビール、ワイン、パンなど、多くの食品づくりに利用されています。
私たちが感じる「発酵らしさ」の多くは、実は酵母の働きによって生み出されていると言っても過言ではありません。
酵母が生み出すアルコールと炭酸ガス
酵母の代表的な働きは、糖をアルコールと二酸化炭素に変えることです。
例えば、
- 日本酒ではアルコール
- ビールではアルコールと香り
- パンでは炭酸ガスによる膨らみ
として利用されています。
パン生地がふっくら膨らむのも、酵母が発生させた二酸化炭素によるものです。
同じ微生物でありながら、利用方法によってまったく異なる食品が生まれるのは興味深いところですね。
酵母の本当の魅力は「香り」
実は酵母の価値は、アルコールを作ることだけではありません。
発酵中には様々な香り成分も生成されます。
日本酒でよく表現される
- リンゴのような香り
- バナナのような香り
- 華やかな吟醸香
なども酵母の働きによるものです。
ビールやワインにおいても、それぞれの酵母が生み出す香りが個性となっています。
つまり酵母は、
「味」だけでなく「香り」を設計する微生物
とも言えるのです。
乳酸菌との違い
前回ご紹介した乳酸菌と酵母を比較すると、
乳酸菌
- 乳酸を生成する
- 保存性を高める
- 発酵環境を整える
酵母
- アルコールを生成する
- 炭酸ガスを生成する
- 香りを作り出す
という違いがあります。
乳酸菌が守り役だとすると、
酵母は発酵食品のおいしさや個性を引き出す"演出家"のような存在かもしれません。
発酵は微生物のチームプレー
発酵食品は、一種類の微生物だけで作られているわけではありません。
日本酒や味噌、醤油などでは、
- 麹菌
- 乳酸菌
- 酵母
といった微生物たちが、それぞれの得意分野を活かしながら発酵を進めています。
一つひとつの微生物の役割を知ると、発酵食品を見る目も少し変わってくるのではないでしょうか。
まとめ
酵母は、
アルコール、炭酸ガス、そして香りを生み出す微生物
です。
乳酸菌が整えた環境の中で活躍し、発酵食品に個性と魅力を与えています。
次回は、日本の発酵文化に欠かせない
「麹菌」
についてご紹介したいと思います。
どうぞお楽しみに。
21
2026-07
微生物ごとに得意な発酵の違い①(再掲・おさらい)
いつもキティーブログをご覧いただきありがとうございます。
先日11日、1987年に日本人で初めてノーベル生理学・医学賞を受賞された利根川進教授が86歳でお亡くなりになりました。
ご存じの通り、免疫の抗体を作る遺伝子の仕組みを解明されての受賞で、当社の乳酸菌研究にも深く関わりのある内容です。
ご冥福をお祈り申し上げます。
さて前回、微生物ごとに得意な発酵の違いについて、数回に分けて整理していく、として、①乳酸菌に触れてから早1か月が経ってしまいました。
間が空いてしまったため、①のおさらいをしておきたいと思います。
乳酸菌 ― 発酵の土台をつくる存在(酸で守り、整える発酵)
乳酸菌は、糖を分解して乳酸を作り出す微生物です。
この乳酸によって食品のpHが下がり、腐敗菌の増殖が抑えられるため、保存性が高まります。
ヨーグルト、漬物、キムチ、ぬか漬けなど、多くの発酵食品で活躍しているのが乳酸菌です。
特徴は、酸味を生み出すことと、環境を整えること。ほかの微生物が働きやすい土台を作る役割も担っています。
乳酸菌が先に増殖して乳酸を作ることで、
・pHが下がる
・腐敗菌の増殖が抑えられる
・他の微生物が安定して働ける環境が整う
といった変化が起こります。
つまり乳酸菌は、
発酵の最前線で働く"守り役"であり、調整役とも言える存在です。
乳酸菌があるからこそ次の発酵が進む
味噌や醤油、日本酒などの発酵食品では、
乳酸菌だけでなく、酵母や麹菌といった他の微生物も関わっています。
その中で乳酸菌は、
「まず環境を整え、その後の微生物にバトンを渡す」
という役割を担っています。
発酵が一種類の微生物だけで完結しない理由は、
それぞれの微生物に得意分野と役割分担があるからです。
乳酸菌の発酵は、発酵食品の「安全性」と「さっぱりした味わい」を支える重要な存在とも言えます。
また近年、乳酸菌は発酵食品の製造だけでなく、整腸作用や免疫機能との関わりについても研究が進められています。
腸は「最大の免疫器官」とも呼ばれており、腸内細菌のバランスを整えることが健康維持につながるとして注目されています。
乳酸菌は、発酵食品を支える微生物であると同時に、私たちの健康にも深く関わる身近な存在と言えるでしょう。
次は、(①を忘れないうちに)香りとアルコールを生み出す「酵母」についてご紹介します。